肺炎

要点

  ①CAP、NHCAP、HAPの分類、重症度・敗血症合併の有無を評価し、外来/入院と抗菌薬を判断する
  ②喀痰塗抹は良質検体で行い、緑膿菌をカバーするかどうかを念頭におく
  ③高齢者の肺炎では一度は抗酸菌培養を提出する(結核を疑う時は隔離、抗酸菌染色を行う)

Points
・細菌性と非定型病原菌による肺炎を鑑別する。
・重症度はA-DROP、また敗血症の合併についてはqSOFAを確認する。
・基礎疾患を有する患者は入院のハードルを下げた方が無難。
・ワクチンの接種歴を確認し、高齢者(65才以上)や基礎疾患を有する患者には、ワクチン予防接種(肺炎球菌やインフルエンザ)を積極的に勧める。

非定型肺炎の鑑別項目
a) 年齢60歳未満
b) 基礎疾患がない、もしくは軽微である
c) 頑固な咳
d) 聴診上所見が乏しい
e) 痰がない、もしくは迅速診断法で原因菌が証明されない。
f) 末梢血白血球が10,000/μl未満
4項目以上合致で非定型肺炎疑い、3項目以下で細菌性肺炎疑い(ただしレジオネラ肺炎は含まれていない!)

総論

肺炎は日本での死因第3位であり、特に高齢者では患者背景を考慮し、迅速かつ適切な抗菌薬選択が必要である。
肺炎は以下のように分類される。

市中肺炎(CAP:community–acquired pneumonia)
  病院外で日常生活をしている人の肺炎でNHCAP、HAPを除く。
医療・介護関連肺炎(NHCAP:nursing and healthcare-associated pneumonia)
  医療ケアや介護を受けている人に発症する肺炎。下記の1つ以上を満たす。
    1.療養病床に入院。もしくは介護施設に入院(精神病床も含む)
    2.90日以内に病院を退院
    3.介護を必要とする高齢者(PS3(日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす)以上)、身体障害者
    4.通院で継続的に血管内治療中(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制剤等)
院内肺炎(HAP:hospital acquired pneumonia)
  入院48時間以上経過した患者に新たに出現した肺炎。 
  人工呼吸器関連肺炎(VAP:ventilator associated pneumonia)は人工呼吸開始48時間以降に発症する肺炎。

主訴

発熱、咳嗽、痰、胸痛、呼吸困難
※高齢者では上記の典型的な症状がなく、食欲低下・嘔吐・意識障害のみの例もあるため注意!

General & Vital signs

Generalは良好なものから重篤なものまで様々である。
敗血症を合併していないかqSOFAを評価する。

鑑別疾患

うっ血性心不全、ARDS、結核、間質性肺炎の急性増悪などびまん性肺疾患、肺癌など

医療面接・診察

医療面接 ※CAP/NHCAP/HAPと一般細菌/非定型肺炎を推定する!
  現病歴:自覚症状(発熱、咳、痰、呼吸困難、筋肉痛、寝汗、胸膜痛など)、sick contactの確認
  既往歴:呼吸器疾患(COPD、気管支拡張症など)、循環器疾患(慢性心不全)、糖尿病、肝硬変、最近の入院歴など
  内服歴:ステロイド、免疫抑制剤、市販の感冒薬、前医で抗菌薬の投与歴
  生活歴:喫煙歴、飲酒歴など
  その他:ワクチン接種歴の有無(肺炎球菌ワクチン、インフルエンザウイルスワクチン)など
診察
  口腔内:齲歯などの衛生状況や舌乾燥所見の有無
  呼吸音:cracklesの有無(深吸気を促す、背部も確認)、呼吸音の低下や左右差(胸水や無気肺の合併)
  皮膚 :腋窩の乾燥、turgorなど脱水所見の確認
  四肢 :下腿浮腫(溢水徴候の有無)、ばち指(肺癌、間質性肺炎などの合併)

検査

血液検査:CBC、血液像、肝機能、腎機能、電解質、CRP
     ※必要に応じて、マイコプラズマ抗体(PA)・クラミドフィラ抗体(IgM、IgG)も考慮!
胸部Xp:肺炎像があれば肺炎の診断、肺炎像がなくても症状があれば気管支炎の診断(治療は同じ)
胸部CT:重症でなければ原則不要だが、胸水貯留・肺膿瘍・肺癌を疑う場合は考慮
     また重症例やびまん性の陰影を呈する時は撮影が望ましい(びまん性肺疾患との鑑別のため)
痰培養:痰の膿性部分(P痰)を染色し、起因菌を推定し抗生剤を検討
    高齢者では喀痰抗酸菌培養を提出(特に肺野、縦隔石灰化など陳旧性結核病変を有する例)
    画像上活動性結核が否定できない時はチール・ニールセン染色を行う
血液培養:陽性率が低いため、軽症~中等症はルーチンでの血液培養は不要
     重症肺炎の場合や、他の熱源検索が必要な際は血液培養2セット採取する
その他:必要に応じて、尿中肺炎球菌抗原、尿中レジオネラ抗原、インフルエンザウイルス抗原

治療

①外来治療(内服加療) ※治療期間5〜7日
    ⅰ)CAP:基礎疾患がないor軽微で、喀痰塗抹で肺炎球菌が想定される場合
    AMPC(サワシリン®)250mg 1回2錠 1日3~4回
    ⅱ)CAP/NHCAP:喀痰塗抹でモラキセラもしくは誤嚥性肺炎を想定される場合
    AMPC/CVA(オーグメンチン®)250mg + AMPC(サワシリン®)250mg 1回各1錠(合計2錠) 1日3~4回
    ※通称「オグサワ」(AMPCとCVAの配合比の問題で、オーグメンチンとサワシリンを併用する方法)
    ⅲ)CAP/NHCAP:基礎疾患(COPD、気管支拡張症等)がある場合
            喀痰塗抹でGNR(緑膿菌、腸内細菌、BLNAR)が想定される場合
    LVFX(クラビット®)500mg 1回1錠 1日1回 ※処方前に抗酸菌検査を必ず提出! 
    ⅳ)非定型病原体(マイコプラズマ、クラミドフィラ等)が考慮される場合
    AZM(ジスロマック®SR)2g 空腹時1回 飲みきり終了 ※処方時に消化器症状の副作用について要説明!
    ⅴ)一般細菌、非定型肺炎の鑑別困難or合併を疑う場合
    a)上記ⅱ+ⅳ:AMPC+AMPC/CVA+AZM
    b)上記ⅳ:LVFX ※処方前に抗酸菌検査を必ず提出!

②入院治療(点滴加療)
    ⅰ)中等症で緑膿菌など耐性菌のリスクが低い時
    a)CTRX 1〜2g 1日1回 ※肺炎球菌、BLNARまで含めたインフルエンザ桿菌をカバー
    b)ABPC/SBT 1.5〜3g 1日4回(腎機能により用量調節必要) ※モラキセラ、誤嚥性肺炎をカバー
    ⅱ)中等症で緑膿菌など耐性菌のリスクが高い時
    抗緑膿菌作用のある抗菌薬(例:PIPC、PIPC/TAZ、CAZなど)
    ⅲ)重症例
    CAP:a)CTRX 2g 1日1回 + AZM 500 mg 1日1回 ※AZMは3日間で終了
          b)CTX 2g 1日3〜4回 + AZM 500mg 1日1回 ※AZMは3日間で終了
          c)LVFX 500mg 1日1回 ※AZM点滴投与による心負荷が懸念される場合に考慮
    NHCAP/HAP:喀痰塗抹、重症度、過去の培養歴・治療歴を参照に抗菌薬を選択
※重症市中肺炎においてはステロイド(例:mPSL 40mg/day 5〜7日)を併用してもいい例がある!(上級医と要相談)

AZM(ジスロマック®)
重症例におけるジスロマック®SR 2gは使用データが多くない。
組織移行性は非常にいいが、bioavailabilityは30%程度であり、重症患者では腸管からの吸収率が低下する可能性があり点滴投与が望ましい。
またマクロライド系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬は、QT延長症候群でtorsades de pointesを誘発することがあるため注意が必要である。

Discharge or Admission Criteria

重症度(A-DROP)や敗血症の合併有無(qSOFA)に応じて外来と入院(一般病床orICU)を判断する。
肺炎に対して外来治療を行う場合は、3〜5日後に外来フォロー(全身状態、血液検査、胸部Xp)を行う。
気管支炎と判断した場合は、原則外来フォローは不要(ただし年齢、基礎疾患、他気になることあれば予約可)。
ワクチン未接種歴の高齢者(65才以上)や基礎疾患を有する患者には、ワクチンの予防接種(肺炎球菌やインフルエンザ)を積極的に勧める!

A-DROPとqSOFA
【A-DROP】
日本で広く活用されている市中肺炎(CAP)の重症度分類であり、外来/入院/ICU入院の判断基準の1つ。
  1.Age:男性≧70歳以上、女性≧75歳以上
  2.Dehydration:BUN≧21mg/dlまたは脱水あり
  3.Respiration:SpO₂≦90% (PaO₂≦60Torr)
  4.Orientation:意識変容
  5.Pressure:収縮期血圧≦90mmHg
0点→外来治療、1,2点→外来or入院、3点→入院、4点→ICU入院

【qSOFA(quick SOFA)】
敗血症を疑うための簡便なツール。
  1.呼吸数22回/分以上
  2.意識変容(GCS<15))
  3.収縮期血圧100 mm Hg以下
上記1〜3のうち2項目以上で、敗血症を念頭に置く必要がある。

起因菌の推定
①患者背景から起炎菌を推定
  COPD・気管支拡張症:肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラ・カタラーリス、クレブシエラ、緑膿菌など
  食事の際のむせ込み、脳梗塞後、パーキンソン病、齲歯:嫌気性菌、腸内細菌による誤嚥性肺炎
  糖尿病、飲酒、肝疾患:クレブシエラ、黄色ブドウ球菌
  sick contact、ウィルス感染後:肺炎球菌、マイコプラズマ肺炎、黄色ブドウ球菌、A群溶連菌
  温泉、旅行歴、循環型風呂、土木作業、川など:レジオネラ
  動物接触歴、ペット飼育歴:クラミドフィラによるオウム病、コクシエラによるQ熱
②画像所見から起因菌を推定
  大葉性肺炎:肺炎球菌、レジオネラ、クレブシエラなど
  気管支肺炎:モラキセラ、インフルエンザ桿菌、緑膿菌など
③痰スメアから起因菌を推定
  GPDC(グラム陽性双球菌):肺炎球菌
  GNDC(グラム陰性双球菌):モラキセラ・カタラーリス
  GNRs(グラム陰性桿菌small):緑膿菌
  GNRm(グラム陰性桿菌middle):腸内細菌(クレブシエラ等)
  Polymicrobial pattern:誤嚥性肺炎(口腔内嫌気性菌も考慮)

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