肝性脳症

要点

  ①血中NH3濃度と意識障害の程度は相関しない
  ②肝硬変の原因と肝障害度(Child-Pugh分類)を確認する
  ③肝性脳症の基本治療はアミノレバン®だが、劇症肝炎ではアミノレバン®禁忌!

Points
・羽ばたき振戦は他の代謝性脳症(尿毒症、CO2ナルコーシス、低Na血症、低酸素)でも現れる
・肝性脳症は電解質異常(低Na/K/Mgなど)を合併しやすいことに注意が必要。

総論

肝性脳症は「肝臓が悪いことによって神経・精神的な症状を呈し、他の病因によって説明されない」と定義される。
慢性肝不全や急性肝不全を背景として起こる。

主訴

脳症一般の症状として、(変動の少ない)意識障害、(全身性の)痙攣など

鑑別疾患

意識障害のAIUEOTIPS(飲酒後の頭部外傷による意識障害にも注意)
アルコール関連疾患(急性アルコール中毒(酩酊)、急性アルコール性肝炎、アルコール離脱、低P血症、Wernicke脳症など)

医療面接・診察

医療面接
  飲酒歴(量、期間、最終飲酒)
  肝性脳症の誘因(高蛋白食、便秘、消化管出血、脱水、感染症、ベンゾジアゼピン投与)
診察
  慢性肝炎・肝硬変に伴う身体所見(肝腫大、腹水、黄疸、クモ状血管腫など)
  肝性口臭、羽ばたき振戦、昏睡度の評価

肝性脳症の昏睡度
 Ⅰ度:NH3高値
    症状なし
 Ⅱ度:見当識障害・異常行動・羽ばたき振戦あり
    医師の指示に従える
 Ⅲ度:興奮状態or傾眠状態・羽ばたき振戦あり
    医師の指示に従わない
 Ⅳ度:昏睡状態(完全な意識消失)
    痛み刺激に反応あり
 Ⅴ度:深昏睡状態
    痛み刺激にもまったく反応なし

検査

血液検査:NH3(計測には特殊容器&冷却が必要なため、看護師や検査部に一声かけること)、
     CBC、生化学、凝固  ※Child-Pugh分類に必要な、Alb・T-Bil・PTも必須!
     初発の肝性脳症と診断した場合、HBs-Ag、HCV-Abも要確認!
腹部エコー:肝硬変の有無を精査(既に肝硬変の診断がある場合、必ずしもエコー精査は必要ない)
頭部CT:意識障害精査(外傷性変化や頭蓋内病変を除外し、脳浮腫の有無を評価する)

血中NH3
肝性脳症に対して感度37.5%、特異度66.7%であり、肝性脳症で必ずNH3が上昇する保証はないことに注意が必要。
肝性脳症以外にNH3が上昇する原因として、以下の鑑別が挙げられる。
 ・門脈—大循環シャント
 ・ウレアーゼ産生菌による閉塞性尿路感染症
 ・痙攣発作後
 ・尿素サイクル酵素異常症
 ・CKD患者のCV栄養
 ・薬剤性
 ・偽性高値(長時間検体放置によるNH3上昇)など

治療

①分子鎖アミノ酸
 アミノレバン®(500mL/本) 1回500mL div(2時間) 1日1〜2回(最大2回/dayまで)
②NH3産生・吸収抑制
 モニラック・シロップ65%(0.65g/mL) 1回10〜20mL po 1日3回(最大60mL/dayまで)
③原因除去
 例:蛋白制限食(30g/day) ※誤嚥リスクあるなら欠食しST評価後に食事再開検討
   感染症治療(抗生剤投与など)
   電解質補正(低Na/K/Mgなど)

Discharge or Admission Criteria

初発の肝性脳症患者・昏睡型急性肝不全(劇症肝炎)は、至急消化器内科にコンサルト後、原則入院。
特に、昏睡型急性肝不全の場合、ICU入院が望ましい。
肝性脳症を反復している患者で、アミノレバン®1本投与後に意識清明で患者本人が外来希望する場合、
消化器内科での外来フォローも検討可能。

診療上のポイント・アドバイス

・慢性肝不全がベースの肝性脳症では、腹水のコントロールなど、他の合併症対策にも気を払う。
・急性肝不全をベースとしているものであれば、予後はかなり悪く、生体肝移植も考慮される。
・アルコール離脱に注意し、離脱予防目的にホリゾン®(ベンゾジアゼピン系)の内服を考慮する

アルコール離脱せん妄の予防・治療例
予防:セルシン®(ジアゼパム)1回5〜10mg 1日4回(約1週間かけて徐々に減量)
治療:セルシン®(ジアゼパム)1回5〜10mg 1日6回(1日4回に減量後、内服に切り替える)

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