外傷
①Primary Surveyでは、A(気道)・B(呼吸)・C(循環)の安定化に努める
②Primary Surveyでは、『TAFな3X、MAP-D』を見逃さない!
③切迫するD(例:GCS≦8)では、Primary Survey終了後に頭部CTを撮像する
Points
・Primary SurveyでABCDEアプローチに基づき、生命維持のための生理機能の維持・回復を最優先として検索・対処することが最も重要である。
・Secondary SuyveyはABCの安定化が得られてから評価する。解剖学的評価に主眼を置き、全身を系統的に評価し異常所見がないかを検索する。
外傷患者の見方は日本では2002年に日本外傷学会と日本救急学会により外傷初期診療ガイドラインJapna Advanced Trauma Evaluation and Care(JATEC)が創設され、そのプロトコールはPrimary Survey、Secondary Survey、根本的治療の3段階からなる。
外傷の死亡には大血管損傷や致命的脳損傷で即死または数分で死亡する群、呼吸障害や出血が原因で2~3時間後に死亡する群(preventable trauma death:PTD)、敗血症や多臓器不全で数日以降に死亡する群があり、初期診療の最初の目標はPTDを防ぐことである。
外傷(転倒、交通外傷、転落)
全身状態は良好なものからsickなものまで様々である。
高エネルギー外傷やショック・呼吸不全・意識障害を伴う場合はすぐに救命当直にコールする。
一般に成人の場合は脈拍数120回/min以上では出血性ショックを考える。(小児:160、乳児:180、高齢者:90)
外傷におけるショックの大部分は出血性ショックが占め、治療面から緊急度が高い。
出血性ショック以外のショックの鑑別として緊張性気胸、心タンポナーデによる閉塞性ショックが重要である。
高エネルギー外傷
以下のような情報がKey wordになる。
・6m以上の高さからの墜落
・車両にはねられた歩行者、自転車
・同乗者が飛ばされた二輪車事故
・同乗者が即死した車両事故
・車外放出
・搭乗空間の高度な変形があった車両事故
・救出に20分以上を要した車両事故
・横転した車両事故
・体幹を重圧で挟まれた外傷
①SAPMポーズ
10秒程度で第一印象とABCDEのどこに異常があるかを把握する。
②Primary Suevey
A(Airway:気道):発声できるかを評価、口腔内出血多量→吸引、必要に応じて気管挿管や輪状甲状靭帯切開
B(Breathing:呼吸):呼吸数、呼吸パターン(呼吸音の左右差、打診所見、皮下気腫の有無)を評価
C(Circulation:循環):橈骨動脈触知、冷汗の有無、FAST、胸部Xp、骨盤Xp
D(Dysfunction of CNS:意識):意識レベル(GCS,JCS)、瞳孔所見、片麻痺 ※切迫するDの有無を評価
E(Exposure & Environmental control:脱衣と体温管理):体温測定、外出血や開放創の有無を観察し圧迫止血
③Secondary Survey
・頭部CT or 全身CT:切迫するDの場合、Secondary Surveyの最初にCTを撮影する。
・AMPLE(本人or救急隊or目撃者or関係者から聴取)を問診で確認 ※高エネルギー外傷の有無を評価
・Head to toe、Front to back(全身観察)
※上部胸部外傷の場合、大動脈損傷に注意を払う(特に第一肋骨などを骨折している場合)
※下部胸部外傷の場合、腹部臓器の損傷に注意を払う
AMPLE
A Allergy(アレルギー)
M Medicine(内服薬)
P Past medical history(既往歴)
L Last meal(最後の食事)
E Event(出来事)
切迫するD
1. GCS合計点が8以下(JCSが30以上)
2. レベルが急速に悪化(GCS合計点2点以上の低下)
3. 瞳孔浮動、片麻痺やCushing現象(高血圧+徐脈)
上記3項目のうちいずれかの兆候がある場合、切迫するDと判断する。
切迫するDの場合、Secondary Surveyの最初に頭部CTを撮影する。
Primary Surveyで異常を認めた場合、以下の対応を検討する。
①A(気道)の異常:吸引、用手的気道確保、気管挿管、エアウェイ、輪状甲状靭帯穿刺・切開など
②B(呼吸)の異常:酸素投与
③C(循環)の異常:酸素投与、輸液、圧迫止血、輸血
ABCを安定化させた上で、必要に応じて根本治療の準備を進めていく。
挿管の適応
①A(気道閉塞):舌根沈下、誤嚥(血液・吐物)の危険大、頸部の血腫・口咽頭損傷・顔面外傷など
②B(換気障害):呼吸停止、呼吸不全(補助呼吸が必要な状態)、酸素化不良、重症肺挫傷・フレイルチェスト
③C(循環障害):高度ショック
④D(意識障害):切迫するD(GCS≦8点または2点以上の悪化、瞳孔不同、麻痺)
⑤その他:Gag reflex(咽頭反射)消失
頚椎カラー
①画像評価(CTまたはXp)
頚椎カラー装着されている場合、頭部CTを撮影する場合は一緒に頸部も撮影する。
CTを撮影しない場合、頚椎3方向Xpを撮影し画像所見で異常を認めないか確認する。
②圧痛確認
画像所見で異常を認めず頸部圧痛も認めない場合、頚椎カラーを外すことを考慮する。
頚椎カラー抜去後、自分で頸部を回旋してもらい圧痛や手足の痺れ等を認めないかを確認する。
頸部回旋に異常を認めなければ、基本的にそのまま頚椎カラーを外してよい。
※アルコール飲酒している患者では評価が難しいため、頚椎カラー装着のままが望ましい。
軽症例は帰宅可能。
アルコール酩酊者は頚椎カラー装着の上で翌朝まで経過観察or入院が望ましい。
根本治療が必要な重症例は入院。
FASTは経時的に行う。必ず複数回評価すること(少量の出血の場合、最初は見落とす可能性あり)。
TAFな3X、MAP-D
Primary Surveyでは以下の病態がないかを確認する。
T:Cardiac Tamponade 心タンポナーデ
A:Airway Obstruction 気道閉塞
F:Flail Chest フレイルチェスト
X:Tension Pnuemothorax 緊張性帰郷
X:Open Pneumothorax 開放性気胸
X、M:Massive Hemothorax 大量血胸
A:Abdominal Hemorrhage 腹腔内出血
P:Pelvic Fracture 骨盤骨折(を含む後腹膜出血)
切迫するD:重症頭部外傷
※3部位以外の内出血として高位の後腹膜血腫がある。
特に膵、腎、腹部大動脈損傷および腰椎破裂骨折に伴う後腹膜出血はFAST、Xpで認知困難な内出血である。
血尿を認めると腎損傷に関連した後腹膜血腫の可能性が高くなる。