失神
①失神の原因として、心原性・出血を除外することが重要!
②失神は循環器疾患!
③病歴チェックリストを1つずつ確認し、失神の鑑別を行う!
Points
最優先は心原性失神・出血による失神を除外する(心原性は突然死のリスクが高い!1年後の死亡率は18-33%!)。
前駆症状や発症時の状況、発症後の意識の戻り方を目撃者も含めて問診し、
失神なのかどうか、失神ならどのタイプの失神かを鑑別する。
失神の定義は「一過性の意識消失発作の結果、脱力や痙攣を伴って姿勢が保持できなくなり、
かつ、自然に、また完全に意識の回復がみられること」。
病態生理としては「脳全体の一過性低灌流」で、脱力や痙攣を伴い、数秒〜数分で自然に元の状態に戻る。
元の状態への戻りが悪い場合は意識障害の鑑別が必要。
失神は大きく分けて心原性失神・神経調節性失神・起立性低血圧に分けられる。
心原性失神と出血による起立性低血圧を除外することが最も重要。
神経調節性失神は倒れて臥位になることで症状が改善し、外傷を伴わなければ命に危険がないことが多い。
立ちくらみ、悪心、嘔吐、目の前が真っ暗になる,失禁、冷汗など
来院時には意識が完全に回復していることが多い。
血圧の左右差、頻呼吸や頻脈・徐脈、低血圧の持続は器質的な疾患を疑う
心血管性:急性心筋梗塞、不整脈(例:Brugada症候群、QT延長症候群)、大動脈弁狭窄、肥大型心筋症、
肺高血圧症、肺塞栓、大動脈解離など
起立性低血圧(循環血漿量減少):脱水、出血(消化管出血、肝癌破裂、大動脈瘤破裂、子宮外妊娠破裂など)
神経調節性:入浴、迷走神経反射、状況失神、頚動脈洞過敏性失神など
薬剤性(徐脈):α-blocker、β-blocker、Ca拮抗薬、利尿薬、ジゴキシン、睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬など
薬剤性(QT延長):Ⅰ群抗不整脈薬、マクロライド系、三環系・四環系抗うつ薬など
その他:痙攣、意識障害、くも膜下出血など
HEARTS
見逃してはいけない失神の原因の覚え方。
H Heart attack(AMI,AS,Brugada症候群)
E Embolism(PE)
A Aortic dissection(大動脈解離)
R Rhythm disturbance(不整脈)
T Tachycardia(VT)
S SAH(くも膜下出血)
TIA
椎骨脳底動脈系のTIAで脳幹網様体の虚血による失神を生じる可能性はあるが、
その場合『意識障害+神経学的異常所見』が出るはずであり、意識障害のみのTIAは稀である。
医療面接
失神の鑑別を行う上で、医療面接が最も重要なカギになる!
以下の病歴チェックリストを1つずつ確認する。
診察
貧血精査:眼瞼結膜貧血、簡易Tilt試験、必要なら直腸診など
心原性精査:心音・心雑音、心不全兆候(下腿浮腫、wheeze、crackleなど)、血圧左右差など
痙攣精査:舌咬傷、尿失禁、神経学的異常所見など
※失神によって転倒した場合、外傷がないかを全身しっかり確認する!
簡易Tilt試験
起立性低血圧を確認するための簡易診察法。
①仰臥位で心拍数・血圧を測定
②立位または端座位で1分・2分・5分後に心拍数・血圧を測定
陽性基準:SBP 20mmHg以上低下 or HR 30bpm以上増加
①心電図:Ottawa心電図クライテリア
※上記のいずれかに該当すれば、心原性失神の可能性が高い(感度96%、特異度76%)。
※若年者では肥大型心筋症、QT延長症候群、Brugada症候群、WPW症候群などに注意
②胸部Xp:上縦隔拡大・肺うっ血などを評価
③その他(必要時):血液ガス(Lac上昇は痙攣を示唆)
血液検査(Hb、Ht、K、Mg、NT-proBNP、トロポニン、Dダイマーなど)
心エコー(心筋梗塞、大動脈弁狭窄、肥大型心筋症などの確認)
頭部CT(SAH、症候性てんかんの原因となる所見等の確認)
原疾患に応じた治療(例:輸液、輸血、ペースメーカー)
心原性失神、出血による失神なら入院適応あり。
迷走神経反射、心因性は帰宅可能。
高齢者の失神で原因不明であれば(明らかな迷走神経反射などでなければ)入院・経過観察が望ましい
San Francisco Syncope Rule『CHESS』
失神の入院適応を判断する基準の覚え方『CHESS』
C CHF:心不全の既往
H Ht:Ht<30%(貧血)
E ECG:心電図異常
S Shortness of breath:呼吸困難
S SBP:SBP<90mmHg
※1項目でもあれば入院適応あり(重篤化予測の感度96%、特異度62%)
精査の結果、少しでも心原性を疑う所見があれば循環器コンサルト。
失神の定義から少しでも外れる場合は、他疾患(例:SAH、痙攣)も考慮し頭部CTなども含めた幅広い精査が必要。