アルコール中毒・薬物中毒
①ABCの確保を最優先に行い、原因薬物の内容・量を確認する!
②活性炭・透析の適応・非適応を確認する!
③意識障害などの原因をアルコールと決めつけない!
ERで遭遇する意識障害の原因として多いのが、アルコール中毒および薬物中毒である。
状況を本人から聴取できないことが多く、家族や目撃者、救急隊からの情報が重要になる。
また外傷を併発していないかを評価することも重要である。
5大原則・3大合併症
5大原則
①全身管理 ②吸収の阻害 ③排泄の促進 ④解毒薬・拮抗薬 ⑤精神科的評価と治療
全身管理として、AB&3Cs(Airway, Breathing, Circulation, CNS, Complications)が重要!3大合併症 3As
①Aspiration pneumonitis(誤嚥性肺炎)
②Abnormal body temperature(異常体温)
③Atraumatic crush syndrome / compartment syndrome(非外傷性挫滅症候群 / コンパートメント症候群)。
意識障害、転倒、外傷(血を流して倒れている)など
・低体温に注意
・原因不明の意識障害、血圧低下、アシドーシスなどを見たとき、中毒の可能性を疑う
医療面接
現場の状況:家族や目撃者、救急隊から
既往歴:アルコール依存、薬物依存、精神科疾患などの既往
摂取した薬物の情報:摂取した時間、種類、量(薬に空き箱や空包の確認)
診察
★外傷の有無、AB&3Cの確認
A(Airway):
舌根沈下や嘔吐による気道閉塞、刺激性ガスや腐食性物質による喉頭浮腫・喉頭痙攣の有無
→気管挿管、困難なら輪状甲状靭帯切開
B(Breathing):
呼吸障害、換気量低下、換気不全(呼吸抑制、呼吸筋麻痺)、低酸素血症の有無
→人工呼吸管理、PCPS管理
3C(Circulation、CNS、Complications):
Circulation:ショック、心毒性による急性心不全や不整脈の有無
例:徐脈→アトロピン、Vfまたはpulseless VT→アドレナリン・除細動
CNS:GCS、瞳孔・対光反射、麻痺、DTR、異常反射、Rigidity
Complications:意識障害により長時間倒れている可能性→圧挫症候群、下肢静脈血栓・肺塞栓の合併
血液検査:CBC、生化、凝固、血清浸透圧、血中エタノール濃度
※血糖、電解質異常(Na、K、Cl、Mg、Ca、IP)、CKを要確認!
血液ガス:代謝性アシドーシスの有無を確認、Anion Gapを計算
心電図:QT延長やQRS幅などのチェック(三環系抗うつ薬は多い)
頭部CT:意識障害・外傷の精査
胸部Xp:誤嚥性肺炎の有無を確認
尿検査:トライエージ(薬物中毒で原因薬物が分からないときに有用)
髄液検査:急性中毒以外で中枢神経系の異常をきたす疾患の可能性がある場合
Anion Gap開大をきたす薬物
Anion Gap開大をきたす薬物を『CHEMIST』で覚える!
C:CO(一酸化炭素)、Cyanide(青酸化合物)、Caffeine(カフェイン・風邪薬)
H:Hydrogen sulfide(硫化水素)
E:Ethanol(エタノール)、Ethylene glycol(エチレングリコール)
M:Methanol(メタノール)
I:Iron(鉄剤)、INH(イソニアジド)
S:Salicylate(サリチル酸塩)
T:Theophylline(テオフィリン)
尿中薬物乱用検査(トライエージ)
尿中薬物乱用検査(トライエージ)では、以下の乱用薬物が検出できる
・フェンシクリジン類(PCP)
・ベンゾジアゼピン類(BZO)
・コカイン類(COC)
・覚せい剤(AMP)
・大麻(THC)
・モルヒネ系薬物(OPI)
・バルビツール酸類(BAR)
・三環系抗うつ剤(TCA)
ただし、他の内服薬(市販の感冒薬など)で偽陽性となることもあり、判断には注意が必要
①ABCの安定化
A:気管挿管、輪状甲状靭帯切開など
B:酸素投与、人工呼吸管理、PCPS管理など
C:アトロピン、アドレナリン、除細動など
②補液
・ハルトマン®、生理食塩水などの細胞外液で十分な補液を行う
・慢性アルコール中毒や低栄養が疑われる場合は、ビタミンB1(アリナミンF®)やブドウ糖もを混注する
※Wernicke脳症予防目的:ビタミンB1→ブドウ糖の順に投与。投与前にビタミンB1血中濃度を測定しておく!
③保湿・保湿
④除染
例:皮膚→衣服を除去、汚染部位を大量の水で洗浄
眼→ベノキシール®点眼液で局所麻酔後、大量の水で洗浄
⑤胃洗浄・活性炭投与
※原則胃洗浄は行わない!(誤嚥のリスクが高く、実施前に期間挿管が必要)
適応:致死量の薬物・毒物摂取かつ摂取後1時間以内のみ
手順:①なるべく太い胃管(成人36~40Fr/小児24Fr以上)を挿入
②薬用炭50g+マグコロール(250mL/瓶)1瓶→NGチューブから注入
禁忌:酸、アルカリ、石油、有機薬剤などの腐食性物質の摂取
出血傾向や食道静脈瘤などがある場合、イレウスや消化管通過障害のある患者
⑥透析
適応:急性リチウム中毒など
⑦解毒薬・拮抗薬
・各種検査で特に問題なく、意識も回復してバイタルに問題なければ帰宅可能。
・必ず、しばらく(24時間ほど)付き添って様子を見てくれる保護者と一緒に帰宅させる。
・自殺企図があれば、精神科へ紹介(精神科救急当番病院への搬送も考慮)。
・患者や周囲の安全が確保できなければ、入院または警察介入を。
・ABCの確保を最優先に行い、原因薬物の詳細(半減期、致死量など)の確認が重要。
・患者対応に困ること(暴力・迷惑行為、自殺企図が強い場合)があれば、上級医に相談し、警察などの介入も検討。
アルコール離脱せん妄の予防・治療例
予防:セルシン®(ジアゼパム)1回5〜10mg 1日4回(約1週間かけて徐々に減量)
治療:セルシン®(ジアゼパム)1回5〜10mg 1日6回(1日4回に減量後、内服に切り替える)
中毒110番
中毒物質の致死量や他の薬剤との相互作用などが不明の場合は、大阪orつくばの中毒110番へ問い合わせる。
・大阪中毒110番(24時間対応)072-726-9923
・つくば中毒110番(9時~21時対応)029-851-9999