尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎・前立腺炎)
①男性の不明熱では必ず直腸診を行い、前立腺炎の有無を確認する。
②無症候性細菌尿(尿中細菌+, 尿中白血球-)は基本的に治療対象外。
③複雑性尿路感染症では、ESBL産生菌やAmp-C産生菌などの多剤耐性菌も考慮する。
Points
・尿路感染症は基本的に除外診断という認識をもつ。
・尿路閉塞がある場合は速やかな解除が必要である。
尿路感染症の対象臓器は腎臓、尿管、膀胱、尿道に加えて、男性の場合前立腺も含まれる。
全身症状を認めないものを膀胱炎、発熱・悪寒戦慄などの全身症状を認めるものを腎盂腎炎と診断する。
膀胱炎は単純性と複雑性に分類される。男性の尿路感染症は基本的に複雑性。
・単純性:基礎疾患のない閉経前女性(検査・フォロー外来不要)
・複雑性:複雑性尿路感染症のリスク因子を持つ女性、及び男性すべて
膀胱炎:排尿時痛、残尿感、頻尿、夜間尿
腎盂腎炎:発熱、悪寒戦慄、側腹部痛、背部痛、嘔気嘔吐
排尿障害を認める場合、閉塞機転を認める可能性があるので要注意!
若い女性の膀胱炎は、Generalもよくバイタルが比較的安定していることが多い。
一方、尿路結石による尿路閉塞が原因でUrosepsisに陥る重症例も存在する。
その他の感染症
医療面接
排尿時痛、残尿感、頻尿、肉眼的血尿の有無
複雑性尿路感染症のリスク因子
診察
CVA tenderness(肋骨脊柱角叩打痛)
直腸診(前立腺の腫大・熱感の有無)
単純性膀胱炎は検査不要。複雑性膀胱炎や腎盂腎炎を考慮する場合以下の検査を考慮。
腹部エコー:腎盂拡張・尿路結石・膀胱壁肥厚・前立腺肥大の有無を確認
各種培養:血液培養2セット、尿培養
血液検査:CBC、生化、凝固、血液ガス ※敗血症合併の有無を確認
尿検査:一般、沈渣
尿グラム染色:起因菌の推定に利用
腹部CT:単純で結石の有無を評価。重症例は造影で炎症や膿瘍形成の有無も評価。
無症候性細菌尿
尿中細菌陽性だが尿中白血球が存在しない場合、基本的には治療対象外。
治療対象となるのは、『妊婦・泌尿器科的手技前、小児』の場合のみ。
①利尿促進
飲水励行、輸液負荷
②抗生剤
過去の培養結果や治療歴を参考に抗菌薬を選択するのが原則!
高リスク患者では、ESBL産生菌・Amp-C産生菌や緑膿菌を考慮する必要があり、上級医に要相談。
外来
単純性膀胱炎:セファレキシン250mg 6錠分3 3日間
複雑性膀胱炎:セファレキシン250mg 6錠分3 7日間
前立腺炎:レボフロキサシン500mg 1錠分1 最低3週間(フォロー外来分まで処方)
入院
腎盂腎炎:①CTM 1g×3/day
②CMZ 1g×3/day ± GM 1mg/kg×3/day ※GMで緑膿菌のカバー可能
③MEPM 1g×3/day
前立腺炎:CTRX 1g×1/day ※LVFX耐性大腸菌も考慮し入院時はCTRXで治療開始
※Enterococcusの場合セファロスポリン系が無効であり、以下の抗生剤を検討する。
E. faecalis:ABPC 2g×4/day
E. faecium:VCM 1g×2/day
③その他
DJステント留置術→泌尿器科コンサルト
※尿路結石による尿路閉塞や腎盂膿瘍を認める場合など、緊急DJステント留置の適応あり
患者教育
尿路感染症繰り返す女性には以下の指導が必要。
・尿を我慢して貯めない
・性交渉後に排尿する
・排便後のトイレットペッパーでの拭き方(腹側から背側へ)
軽症例では帰宅可能だが、発熱・悪寒等を認める場合にはすぐ再診するように指示する。
・尿路感染症は基本的に除外診断であり、臨床経過と所見が尿路感染に合致していてさらに他の感染巣が明らかでない時に尿路感染症と診断できる。
・『尿中白血球の存在≠尿路感染症』である。特に高齢者には、尿路感染症とは無関係の非特異的膿尿が多い。ただし『尿中白血球の不在=尿路感染症の不在』である。
・結石陥頓や腫瘍による尿路閉塞や腎盂膿瘍形成を認め、緊急ドレナージ(DJステント留置)が必要な場合は直ちに泌尿器科にコンサルトを行う。
尿路感染症の起因菌
単純性:PEK(Proteus mirabilis, Escherichia coli, Klebsiella pneumonia)
とくにE. coliが原因の8〜9割を占める
複雑性:PEK+Enterobacter, Serratia, Pseudomonous, Enterococcusなど
ESBL産生菌やAmp-C産生菌などの多剤耐性菌も考慮する必要あり
※Enterococcusはセファロスポリン系抗菌薬が無効であり、グラム染色でGPCの有無を要確認!